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社会思想社刊
『教養の思想』
―その再評価から新たなアプローチへ―
 河合榮治郎研究会・編
『教養の思想』カバー
混迷の時代にこそ「教養」の復権を語ろう!
本来、教養とはハビトゥス(身体化)されたものをいう。
河合思想を通じてその新たな在り方を問う。


 教養があるとみられる人たちの凶悪事件が多発し、「インテリ層のモラル低下」が指摘されている。そんな中、二〇〇一年に生誕百十周年を迎えた思想家・河合榮治郎の「教養の思想」に共鳴した学者らが“教養の復権”を訴えたのが本書だ。

 本書は、河合榮治郎の復権および全体像の究明を目的として参集した河合榮治郎研究会の活動報告書である。二十年前、河合の謦咳に接した門下生と、河合の著作を通じてその思想に共鳴した戦後世代の青壮年を中心に発足した本研究会の研究活動は、冷戦構造の終焉、バブル経済の崩壊、そして、「教養」の衰退などの内外情勢の変化に伴って生じた自由主義・理想主義思想の再評価の潮流に乗り、教育学・政治学・哲学・歴史学をはじめとする研究者を新たに巻き込んで発展を遂げた。二百人を越える人々が結集した一九九四年二月の没後五十周年記念集会(於神田学士会館)以来、毎年一〜二回のペースで開催されてきた大会および研究発表会をはじめとする活動が本書の骨子となっている。

四六判上製 276頁 本体価格2600円
ISBN4-390-60441-4 2002年2月発行

目 次
 まえがき 松井慎一郎
第I部 その今日的意義
 日本リベラリズムにおける河合榮治郎 武田清子
 今甦らせるべき自由主義の思想 粕谷一希
 理想主義者の「意志」 伊原吉之助
 河合教授と同時代の自由主義者たち 芳賀 綏
第U部 教養としての河合体験
 企業人にとっての指針として 伊藤淳二
 鶴見祐輔と河合榮治郎 阪谷芳直
 河合先生と理想主義 松本久男
 教育現場に生きる河合榮治郎 西谷英昭
 ドイツにおける河合榮治郎 川西重忠
第V部 「教養論」への新たなアプローチ
 教養の復権と河合榮治郎 竹内 洋
 河合榮治郎と学生叢書 渡辺かよ子
 河合榮治郎とT・H・グリーン解釈 行安 茂
 河合榮治郎とバーナード・ボザンケ 芝田秀幹
 政治学者としての河合榮治郎 郭 煥圭
 河合榮治郎と柏会 松井慎一郎
 あとがき 川西重忠

執筆者一覧(河合榮治郎研究会)
武田 清子(たけだ きよこ)国際基督教大学名誉教授
粕谷 一希(かすや かずき)『中央公論』編集長などを経て、現在評論家
伊原 吉之助(いはら きちのすけ)帝塚山大学名誉教授
芳賀 綏(はが やすし)東京工業大学名誉教授
伊藤 淳二(いとう じゅんじ)鐘紡株式会社名誉会長
阪谷 芳直(さかたに よしなお)尚友倶楽部常務理事。2001年9月3日急逝。
松本 久男(まつもと ひさお)元茨城銀行頭取
西谷 英昭(にしたに ひであき)大阪府立高等学校教員
川西 重忠(かわにし しげただ)ドイツ・ベルリン自由大学東アジア研究所客員教授
竹内 洋(たけうち よう)京都大学教授
渡辺 かよ子(わたなべ かよこ)愛知淑徳大学教授
行安 茂(ゆきやす しげる)岡山大学名誉教授
芝田 秀幹(しばた ひでき)国立宇部工業高等専門学校一般科専任講師
郭 煥圭(かく かんけい)東京国際大学教授
松井 慎一郎(まつい しんいちろう)和光大学、関東学園大学講師、早稲田大学本庄高等学院講師

まえがきより
……インテリ層のモラル低下と、大学における教養部廃止、学級崩壊、出版不況などの教育・社会問題が絡んで、ここ数年、「真の教養とは何か」「教養復興はいかにして可能か」といった「教養」をめぐる論議が盛んとなっている。現代の代表的教養論者である歴史家阿部謹也は、近著『学問と「世間」』(岩波新書、二〇〇一年)の中で、「教養とは自分が社会の中でどのような位置にあり、社会のために何ができるかを知っている状態、あるいはそれを知ろうと努力している状態である」と定義付けている。「教養」のあるべき姿を主張する者の多くに共通しているのは、阿部の定義と同様、上昇志向を補完するための手段や単なる知識・装飾としての「教養」ではなく、それを身に付けることで、自己やそれを取り巻く社会を認識し、現実の具体的行動に結実できる「教養」を主張している点である。すなわち、自分の人生や行動にフィードバックさせることのできる「教養」が求められているのである。

 二〇〇一年、生誕一一〇周年を迎えた河合榮治郎(一八九一〜一九四四)は、『学生叢書』や『学生に与ふ』などのベストセラーを著した、「昭和期教養主義」の代表的思想家として知られる。河合のいう「教養」とは、余暇に自分の専門以外の学問の書を読んだり、美術品や音楽を鑑賞したりする「有閑人の安易な閑事業」ではなく、「自己が自己の人格を陶冶する」という「雄々しいがしかし惨ましい人生の戦い」であった。その目指すべき「人格」とは、「真、善、美を調和し統一した主体」「完全なる知識と豊富なる情操と広範なる同情とがそれぞれ高度にしてしかも相互に調和した状態」、すなわち、真理的価値、道徳的価値、芸術的価値をバランスよく併せ持った「全人」であった。往々にして、学者や芸術家に自分勝手な人間や協調性を欠いた人間の存在が指摘されるが、これらは真理的価値や芸術的価値においては秀でているものの、道徳的価値を欠いているということになる。河合は単なる学者や芸術家ではなく、バランス感覚の取れた人間の形成を説いたのである。富や地位ではなく、その「人格」の向上というものに河合は人生の最高価値を認めたのである。……
あとがきより
……河合榮治郎研究会は、河合思想の研究と啓蒙を目的として、学生時代に河合の著作に親 しみ、その理想主義的人生観に魅了された社会人有志により二〇年前に創立された。もっとも会とはいうものの会費も会則も入会条件も何も無く、ただ河合榮治郎に関心がある、という一点だけが条件ともいえる任意の会である。従って運営も全てボランティアである。年間行事としては春の総会、秋の研究発表会のほか、二月一五日の青山墓地の墓参会と、九月に一泊二日の研修会を河合教授ゆかりの土地で行っている(昨年は蒲郡温泉、一昨年は箱根・俵石閣)。上記以外の活動としては、一九九四年二月の神田学士会館での没五〇年記念集会、河合教授ゆかりの箱根俵石閣に「唯一筋の道」記念石碑建立、会報の発行、河合榮治郎文献目録(青木育志編)の発行等がある。……

……河合の教養観で特徴的なことは教養の内面性、精神性に加え外部社会への働きかけ、社会改良への意志が旺盛なことである。これには河合の学生時代の恩師である新渡戸稲造、内村鑑三からの感化が大きく関わっている。河合の教養主義は当時の学徒に熱狂的に受け入れられたものの、ついに日本の社会に定着することはなかった。同様に、理想主義の人間観を下部構造とする河合の自由主義の思想体系も史的唯物観と経済を下部構造とするマルクスの思想とは相容れないせいもあり、永くマルクス主義が支配的であった日本の学界からは不当に低く評価されてきたきらいがある。河合の思想の根幹をなしている自我の確立と社会との調和は、今の日本と日本人に求められている喫緊のものである。真の豊かさが経済の数値だけでなく、生活、文化、教養などのトータルな面で計られ、質の高い社会を作ることが叫ばれている昨今、全人格的な河合の教養の思想が見直される時代がまさに到来したといえる。……
『河合榮治郎全集』全24巻はこちらへ
現代教養文庫『新版 学生に与う』河合榮治郎 著はこちらへ
松井慎一郎著『戦闘的自由主義者 河合榮治郎』はこちらへ

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