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◆コラム

リレー出版としてのオンデマンド

本よ、君たちは生き残れ!
 百科文庫あるいは「知」のパノラマと称された現代教養文庫が一昨年廃刊になったとき、版元に読者から多数の惜しむ声が寄せられた。「この不況下で出版業界が厳しい状況に追い込まれていることは、私も知らないわけではありません。しかし、経営困難のために貴重な文化遺産が埋もれてしまうのは、やはり大変な文化的損失ではないかと思うのです。どういう形であれ、21世紀も生き続けてもらいたい」。
 これは、東京在住の20代の男性から。なかには、何かできることはないかと家族で相談したという方、車で乗り付け、足しになればとダンボール三箱分の文庫を買い上げていった方と、それこそ当の社会思想社の人たちも驚く反響があった。
 前後して同社の事業停止が伝えられたわけだが、朝日新聞の読書欄での記事の見出しが冒頭のフレーズ「本よ、君たちは生き残れ」だった。その後は、紀伊國屋書店、ジュンク堂、丸善、三省堂、ブックファーストなどで「現代教養文庫ラスト・セール」が展開され、後日、当時の編集部長から聞いたところでは、「これほど読者と直で接したことはなかった。この時に、その後のやるべきことの気持がはっきり決まりました。きちんとした始末をつけていくこと、そして何らかの形で継承していただけるよう全力を尽くす」との決意だったという。

なぜオンデマンドか
 オンデマンド出版は2000年頃からさまざまな動きが見られるようになっていた。「復刊ドットコム」、作家村上龍氏の作品『希望の国のエクソダス』の先行発売、デジタルパブリッシングサービスの大活字オンデマンドなど。私たちが、現代教養文庫のオンデマンド版「教養ワイドコレクション」の発刊に踏み切ったのは、私自身がかつて社会思想社でお世話になったこともあったが、オンデマンドの可能性に期待するところが大きかった。その第一が少部数に対応できること。通常出版の場合、マーケティングで部数の見通しを得た上で企画を進行することになるが、基本的には見込み生産で、求めやすい価格設定にはある程度の部数を刷らなければならない。第二は、1冊からでも受注、短期で納品できること。したがって、返品はなく在庫も必要ない。往き戻りの運搬、改装も不要、いわば電子的倉庫に在庫しておくことでいい。第三は、何よりも身の丈に合ったところから出発できること、がある。

出版文化のリレーを
 「測り売り」とも訳されるオンデマンドは関係性のより多様な、身近なところで成立するようだ。オンデマンド先進国であるスウェーデンやアメリカでは、読者との距離を縮めるために作家自身が作品の呈示のし方として選び取ることも多いという。読者や出版社の「必要に応じて」にとどまらず、作家の意志に応じてというところまでくるにはまだ時間はかかろうが、村上龍氏の試みなどがそれに当たるだろう。
 本企画について言えば、読者の後押しは言うまでもなく、オンデマンドに新機軸を展開する(株)デジタルパブリッシングサービスという仕掛人に恵まれたことに加え、ラスト・セールで尽力された紀伊國屋書店が発売元を引受てくださるという関係性の妙が、教養文庫のリレー出版を実現させるモメントとなった。
 付記させていただけば、この「リレー出版」という表現は、同じく事業停止で中断した『横山源之助全集』の継承出版を引き受けられた法政大学出版局の平川俊彦氏の言。これも、もうひとつの関係性と言えなくもない。
(文元社代表・河村忠雄)

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