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◆コラム

多田茂治さん、日本推理作家協会賞受賞

  『内なるシベリア抑留体験』(教養ワイドコレクション)の著者、多田茂治さんが第57回日本推理作家協会賞を受賞されました。評論その他の部門で、受賞作は『夢野久作読本』(弦書房)です。
 井上ひさし氏は選評で、「作者の惜愛の情がひしひしと伝わってくるような第一級の評伝。とにかくおもしろい」と賛辞を呈しています(『オール読物』7月号)。
 多田さんと杉山家との縁は、博多で新聞記者をしていたころ、久作の三男、詩人の杉山参克≠ニ親しくなったことに始まるとのこと。「惜愛の情」の源は感性を同じくする人との出逢いということ以上に、多田さんの作品に通底するもののように思われます。未発のもの、顕れる術のなかったことへのまなざし、です。「思い」「夢」といってもいいでしょうか。
 多田さんは以前、「久作を知るには、『ドグラ・マグラ』に、明治期の筑豊炭坑を主要な舞台とした『犬神博士』、大正初年のシベリア出兵当時のハルビンを舞台にした『氷の涯』、少なくともこの三作は必読の小説と言えようが、……夢野久作の地下鉱脈は深い」と書いています。
 博多は「朝鮮半島と指呼の間」にあり、無数の人々が往来して、その遠さ近さをそれぞれに感じさせたに違いありません。そして筑豊は地底との往来の地でした。久作および著者の足下と視界には、日本近代を下支えした地下茎と水平線があったはずです。それは、文学風土として新たな記録文学を胚胎し、久作においては世界意識や文明批評への視座、猥雑、奇矯を背後まで見通す眼光などとして作品化され得たのではないか、と夢想します。
 歴史のアンダーグラウンドとワンダーランドとの出入口、それが幻魔術(ドグラ・マグラ)という扉であれば、入ってみない手はありません。
 多田さんの作品はこれで9作となりました。年代順に挙げてみます。版元名からも、多田さんがどのような「場所」を大切されてきたかが分かります。受賞の辞にも「『地方出版の雄』と云われた福岡の葦書房をご承知の方は少なくないと思いますが、『弦』は、よんどころない事情で『葦』から独立せざるを得なかった、昨年春船出したばかりの出版社です」と付記されています。

  • 筑前江川谷竹槍一揆から秋月の乱まで(葦書房、1979/1)
  • 多摩困民記(創樹社、1979/10)
  • グラバー家の最期 日英のはざまで(地方・小出版流通センター、1991/12)
  • 大正アナキストの夢 渡辺政太郎とその時代(土筆社、1992/3)
  • 内なるシベリア抑留体験(社会思想社、1995/5)
  • 夢野一族 杉山家三代の軌跡(三一書房、1997/5)
  • 野十郎の炎(葦書房、2001/5)
  • 石原吉郎「昭和」の旅(作品社、2004/1)
 10作目はこの9月に刊行された『玉葱の画家―青柳喜兵衛と文士たち』(弦書房)。青柳喜兵衛は博多生まれの画家で、昭和13年に35歳という若さで亡くなりました。この画家は夢野久作の『犬神博士』に独創的な挿画を付してこの物語の世界を見事に浮かび上がらせたことで知られていますが、久作の急逝に際して書かれた追悼文(『月刊 探偵』所収「夢の如く出現した彼」昭和11年5月1日号・光文社文庫)には、「(久作を)産まれながらに知っていたような気もする」とありますから、短い生涯であったとはいえ幾重もの縁を生きたに違いありません。他に、江戸川乱歩『人間豹』(松柏館書店)や、火野葦平『糞尿譚』の装幀でもその作品に触れることができます。

 さて、弊社「教養ワイドコレクション」も第二期に入りました。現代教養文庫のユニークなロングラン企画であった「異色作家傑作選」を、7月刊行の『牧逸馬 世界怪奇実話』をかわきりとして、夢野久作、小栗虫太郎、久生十蘭などへと順次復刻してまいります。また、9月新刊は、目加田誠・大野実之助・松浦友久・芦田孝昭著『中国詩選 全4巻』です。中国詩二千数百年の歴史を概観でき、鑑賞の手引きや代表的詩人の小伝などを付した、現代教養文庫ならではのシリーズです。
 引き続きご愛顧ください。
(田)

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