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現代教養文庫
『野性の呼び声』 The Call of the Wild ジャック・ロンドン 著・辻井栄滋 訳 |
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ISBN4-390-11647-9 本体価格560円 192頁 2001年12月発行 目次 訳者あとがき 『野性の呼び声』の原書がはじめて世に出たのは、一九〇三年七月のことです。初版の一万部が発売当日で売り切れるという好スタートを切り、ベストセラーとなって、やがて世界じゅうに何百万という愛読者を持つようになりました。そして、すでに早くも百年ほどの歳月が流れましたが、ジャック・ロンドン(一八七六〜一九一六)と聞けば『野性の呼び声』(あるいは『荒野の呼び声』)と返ってくる、まさに彼の代名詞的存在として読み継がれてきたと言っても過言ではないでしょう。わが国においても、一九二八(昭和三)年にはじめてあの堺利彦の訳(叢文閣)で出て以来今日まで、対訳版も含めると実に二十点に及ぶ訳書が刊行され、それぞれの時代で相当数の受容を見てきています。そうした先達諸氏の訳業の恩恵にもあずかりながら、原書出版以来百年の時を超えて、新世紀を迎えたばかりの又とない機会に、縁あってこのたび新訳決定版を目指しての本書上梓の運びとなりました。類書にはない原書のイラストもいくつか載録して、原書の雰囲気と、百年前の光景や息吹を感じとっていただけるよう配慮しました。…… ……次に、なぜ『野性の呼び声』がかくも長きにわたって多数の読者を獲得してきたのか、について考えてみたいと思います。まずは何といっても、一八九〇年に消滅したと言われるフロンティアに寄せるアメリカ人の夢や憧れを強烈に満たすものであった点が挙げられます。舞台となっているクロンダイク地方に空前絶後のゴールド・ラッシュが一八九七年に起こりましたが、これに加わった者の数は実に二十五万とも言われています。そしてロンドン自身も、この冒険に身を投じた一人でした。『野性の呼び声』が彼のそうした現地体験に裏打ちされた確かなものだとすれば、迫真力と説得力を備えた物語に仕上がったとしても決して不思議ではありません。ましてやラッシュに加わらなかった人たちにとって、大自然もしくは荒野を背景にしたバックの線の太い生き方は、たまらない魅力だったにちがいありません。そしてそのことは、現代の私たちにとってもさほど変わりはないでしょう。 こうしたスケールの大きさに加え、プロットの新鮮さ、巧みな物語構成等にも触れておかねばなりません。どちらかといえば話題も単調になりがちな極寒の極北の地にあって、しかも物言わぬ犬が主人公という、プロットや構成面からするとかなり難しい組立てを、一事について延々と書き連ねるのではなく、数々の新鮮な題材やアクシデントを一つ一つ的確に織りこみながら全体的に巧みにまとめあげたことで、中だるみの少ない生き生きとしたストーリーとしての成功を収めることができたと言えましょう。たとえば七つの章題だけを見ても、個々に独立した物語性を持ちながら、全体として野性化の過程の構成が図られており、それらのどれを取ってみてもスリルと冒険に満ち、特に当時のアメリカ人の夢と冒険心をかき立てるに十分でした。そのあたりに、優れた短篇作家としての才能に恵まれたロンドンの力量が遺憾なく発揮されています。個々に見ますと、第二章以降にはややもすると退屈になりがちな橇引きの旅が三度描かれていますが、まったく異なるタイプの人物を配したり、多くの犬の多様な性格を描きわけたり、仲間の犬(スピッツ)との激闘や別の仲間の犬(ディヴ)の衰弱と死などをうまく織りこむことによって、みごとに緊迫感を維持しているといった点です。…… 訳者略歴 |
J・ロンドン著・辻井栄滋訳『白牙』―動物小説集2― J・ロンドン著・辻井栄滋訳『ジャック・ロンドン=セレクション』はこちらへ |
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