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現代教養文庫
『白牙』 White Fang ジャック・ロンドン 著・辻井栄滋 訳 |
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ISBN4-390-11648-7 本体価格880円 368頁 2002年6月発行 |
目次 訳者あとがき 『白牙』(しろきば)(White Fang, 1906)は、『野性の呼び声』(The Call of the Wild, 1903)とともに、ジャック・ロンドン(一八七六~一九一六)の代表作の一つである。この二作は、とりわけわが国においては、長いあいだ代表作の双璧のように見られ、事実訳書も多数出版され、今日まで幅広い愛読者層を根強く持ちつづけている。…… ……さて『白牙』は、ロンドンのそうした数々の力作のなかにあっても、最もポピュラーなものの一つである。だが、『野性の呼び声』とちょうど正反対の筋立ての物語にすぎない、ともよく言われる。なるほど大筋では、極北の地に生まれた犬の血のまじった狼が、想像を絶する艱難辛苦に遭(あ)いながらグレイ・ビーヴァー→ビューティ・スミス→ウィードン・スコットという主人たちの手を経て、やがて文明の地カリフォルニアに落ち着くというストーリーであり、『野性の呼び声』のバックと逆のコースをたどる物語と言えなくもない。けれども『白牙』には、『白牙』の持ち味なり独自の工夫なりが明確にいくつも認められる。第一に、分量的にも『野性の呼び声』のほうは中篇小説(ノヴェレット)とでも呼ぶべき長さ(語数三万二千)なのに対し、『白牙』は長篇小説である。さらには、『野性の呼び声』の読者がはじめて『白牙』に親しむ際に必然的に予期するように、単に筋立てがちょうど正反対ではない構成上の工夫がいくつも凝らされている点である。その顕著な例としては、読み進めるにつれて気づくとともに、意外な印象と新鮮味とを感得する第一部がある。すなわち、当然野性味あふれる狼か犬かが登場し、バックと逆のコースをたどるものとの確信に近い予想が初っぱなからものの見事に外れてしまうからである。私は、全三章から成るこの第一部を『白牙』における作者の最も優れた技法の一つとして、また、一篇の優れた短篇小説としても高く評価したい。 『白牙』の優れた点は、このほかにもいくつも挙げることができるだろうが、それらについては読者の皆さんのご判断に委ねたい。ただ、ロンドン自身がこの作品を書くに至った動機なるもの等について述べているので、少し長いがご参考に供したい。 「人々は、僕の“うんざりするようなリアリズム”のあらを探すが、人生はうんざりするようなリアリズムでいっぱいなのだ。僕は、男女の現状――何百万人もがいまだ軟泥の段階(階級のどん底)にあること――を知っている。しかし、僕は進化論者であり、したがって、心の広い楽天家であり、それゆえに僕の人間(たとえ軟泥の状態にあっても)愛は、僕が人間の現状を知り人間の行く手にすばらしい可能性の数々が見えることから生まれるのだ。それが、僕が『白牙』を書く動機そのものだ。生物の生命を構成する原子のことごとくが、たえず結合し、発育成長し、変化する。今存在するどんなに優秀な生物にしても、かつてはどうにでも作られ得る柔軟な幼児にすぎなかったのだ。環境からくる重圧を一方向に限ると、先祖返り――野性への逆もどり――が起きる。もう一方は飼い慣らしであり、教化だ。僕は、生命の図抜けた適応性についても感銘を受けてきたから、環境の驚くべき力と影響をいくら強調してもしすぎることはないという感じがする」 自然主義作家ロンドンの信条が吐露されており、彼の他の多くの優れた作品を読む場合にも通低する考え方である。…… 訳者略歴 |
J・ロンドン著・辻井栄滋訳『荒野の呼び声』―動物小説集 1― J・ロンドン著・辻井栄滋訳『ジャック・ロンドン=セレクション』はこちらへ |
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